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大阪高等裁判所 昭和52年(う)1272号 判決 1978年7月07日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

押収してあるけん銃一丁及び実包五発(うち二発は鑑定のため使用ずみのもの)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人坂元義雄作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

論旨は、原判決の量刑不当を主張し、被告人に対し刑の執行を猶予されたい、というのであるが、これに対する判断に先だち、まず、職権をもって調査するのに、原判示第三の事実によれば、被告人の原判示けん銃一丁所持の犯行は、昭和五一年六月九日ころの犯行であるから、右事実に対しては、昭和五二年法律五七号附則三項により同法律による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二の一号、三条一項を適用すべき筋合いであるところ、原判決は、右改正法の施行後である昭和五二年九月七日に言い渡されたにもかかわらず、「法令の適用」欄において、右事実は銃砲刀剣類所持等取締法三条一項、三一条の二第一号に該当する旨判示しているのみであり、右判示によれば、原判決は、右事実に対し右改正後の法令を適用した趣旨と解さざるを得ないから、この点につき原判決には法令の適用の誤りが存するものといわなければならない。もっとも、原判決は、右事実のほかにも、原判示第三の実包五発の所持、原判示第一の片岡政人及び末原芳貴に対する各傷害及び原判示第二の関税免脱貨物有償取得、無許可輸入貨物有償取得の各事実を認定し、原判示第二及び第三の各事実はそれぞれ一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるとして原判示第二の事実については重い関税免脱貨物有償取得罪の刑で、原判示第三の事実については重いけん銃所持罪の刑でそれぞれ処断し、以上の各罪につきいずれも所定刑中懲役刑を選択し、右各罪につき再犯の加重をしたうえ、原判示第一の末原芳貴に対する傷害罪の刑に刑法一四条の制限内で併合罪の加重をしているから、仮に、原判示第三のけん銃所持の事実に正当な法令を適用したとしても、併合罪の加重をした処断刑の範囲が二〇年以下の懲役刑になることには変りはない。しかしながら、法律の改正によりある犯罪に対する法定刑が重く変更された場合には、一般的にその犯罪に対する裁判の量刑が重くなるのが実情であること、前記改正前の銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二の法定刑は、五年以下の懲役又は二〇万円以下の罰金であったのに対し、前記改正後の同法三一条の二の法定刑は一〇年以下の懲役又は一〇〇万円以下の罰金に引き上げられており、原判決は、原判示第三のけん銃所持罪につき、その法定刑が右改正後の法定刑であると誤解して刑罰評価を加えたものと認めざるを得ないこと、原判示各犯罪の回数、罪質、法定刑(但し、けん銃所持罪については右改正後の法定刑)等からみると、原判決の量刑判断の中で原判示第三のけん銃所持罪に対する違法な刑罰評価の占める部分は相当大きいものといわなければならないことに徴すると、原判示全事実に対する処断刑の範囲が前記法令の適用の誤りの有無により異ならないとはいえ、原判決に前記法令の適用の誤りがなかったとすれば、原判決の量刑よりは軽い量刑がなされ、その結果原判決とは異なった判決がなされたであろう蓋然性が十分存するものといわなければならないから、原判決の前記法令の適用の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるというべきである。

よって、前記量刑不当の控訴趣意に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所においてさらに判決することとし、原判示各事実中、原判示第三のけん銃所持の事実については、昭和五二年法律五七号附則三項により同法律による改正前の銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二の一号、三条一項を適用し、その余の原判示各事実については、右各事実に対する原判示各法条を適用し、原判示第二の関税免脱貨物有償取得の点と無許可輸入貨物有償取得の点及び原判示第三のけん銃所持の点と実包所持の点は、それぞれ一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条によりいずれも一罪としてそれぞれ重い前者の罪の刑で処断することとし、以上の各罪につき所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告人には原判示前科があるので、同法五六条一項、五七条によりいずれも再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるので、同法四七条本文、一〇条により刑最も重くかつ犯情重いと認める原判示第一の末原芳貴に対する傷害罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をし、その刑期範囲内で処断すべきところ、原判示第一の各犯行は、被告人が主導的に犯したものであって、犯行の態様が悪質であるうえに各被害者に与えた傷害の程度も軽視し難いこと、原判示第二の犯行は、被告人が暴力団山口組系小野組内長井組の組員として抗争に備えるためけん銃と実包を入手するに際し犯した犯行であり、原判示第三の犯行は右けん銃及び実包を右目的で隠匿所持した犯行であること、被告人には、傷害致死罪等により処罰された原判示累犯前科のほか傷害罪により処罰された前科二犯があること、被告人は、現在なお前記長井組から離脱しているとは認められないことなどの諸事情に徴すると、被告人の刑責は軽視し難いが、原判示第一の各犯行当時被告人が酩酊していたこと、右犯行については、被害者片岡政人にも動機の点において落度があり、同人は被告人らに対し処罰を望まない旨の意を表明していること、被告人は、右犯行の被害者末原芳貴に対し見舞金五万円を支払って謝罪し、その結果、同人は被告人に対する寛大な処分を望む旨の上申書を作成していること、被告人は、右犯行の被害者片岡政人に対しては見舞金等を支払っていないが、見舞金相当額(金五万円)を神戸市社会福祉援護会に寄付していること、原判示第三のけん銃は修理等をしない限りそのままでは発射できないけん銃であること、被告人は、原判示犯行後定職に就いて妻子を扶養していることのほか被告人の反省状況など被告人に有利な諸般の情状を考慮すると、被告人を懲役一年二月に処した原判決の量刑は、刑の執行を猶予しなかった点においては首肯し得るとしても、刑期の点でいささか重きに失するものと思料されるので、被告人を前記処断刑の範囲内で懲役一年に処し、押収してある主文掲記の各物件は、原判示第二の犯罪に係る貨物(輸入制限貨物等)で、被告人以外の所有に属さないから、関税法一一八条一項によりこれらを没収することとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栄枝清一郎 裁判官 角敬 角田進)

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